2023年9月11日月曜日

雨宮処凛さん著作『非正規・単身・アラフォー女性「失われた世代」の絶望と希望』中国語に訳されました

 雨宮処凛さんが2018年に著した『非正規・単身・アラフォー女性「失われた世代」の絶望と希望』(光文社新書)がこのたび中国語に訳され発行され、雨宮さんから送っていただきました。ありがとうございます。私はこの本の中で雨宮さんの対談相手として登場します。


日本語の方は光文社新書なので表紙は薄いブルーのお馴染みの表紙な訳ですが、中国の本は背中を見せた女性の姿です。


以下雨宮さん宛に送ったお礼のメールの一部です


「・・・雨宮さんや他のインタビューされた方々同様、私の発言も中国語になっているのにも改めて感動しました。


映画監督で山形千恵子さんという方がおられるのですが、彼女の作品"たたかいつづける女たち〜均等法前夜から明日へバトンをつなぐ"というドキュメンタリー映画に私も出演し、その後その映画が英語でも訳された際に山上監督から「栗田の発言は英語に翻訳するのに翻訳家が苦労した」とおっしゃっていたので、私の発言が中国語に訳した際は苦労されたか気になります...。」


この本もまた中国の社会で何かを投じるものとなりますように。


というわけで本の一部をご紹介。

 



2023年2月14日火曜日

「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」のパブリックコメント記入に当たって

 「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」(以下困難女性支援法と省略)は現在2月18日までパブリックコメントを募集している。この募集において2種類のパブリックコメントが募集されており、(1)「困難な問題を関する基本的な方針(案)に関するご意見の募集について」と(2)「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律の施行に伴う関係法令(案)に関するご意見の募集について」という二つだ。今回は主に(1)の方の言及が多くなると思うが、ぜひ(2)のパブコメも多く提出してこの法律が良い法律になっていってほしいと思う。
今年の1月31日、「困難女性支援法のより良い運用を願うつどい」に参加したことをまとめながら、自分がパブリックコメントを作るためのまとめを書きたい。そのことでパブリックコメントを書きたい人の参考になればと考えている。今まで行われてきた「困難女性支援法」にまつわる検討会有識者会議で想定されている層(これについては後述する)のみではないことがこの集いの中で示された。高齢者シングル女性、レズビアンやトランス女性といったセクシュアルマイノリティ、セックスワーカー(と自らをアイデンティファイする人)、アルコールや薬物の依存を抱える女性、アイヌ等の先住民族、障害者、・・・といった女性でありかつこの社会においてマイナーな属性とされる立場に立つ女性たちもまさに「困難な問題を抱える女性」であるはずだが、その立場の人たちに対する「支援」をどう考えるのかは、「困難女性支援法」における主要なテーマのはずと私は考える。またこの「集い」には参加してはいないが、外国人女性やホームレス女性などの存在も困難女性として当然考える必要があると考える。

さて、「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」(以下困難女性支援法と省略)は令和4年(2022年)に成立。令和6年(2024年)4月1日の適用を目指しており、「困難な問題を抱える女性への支援のための施策に関する基本的な方針(案)」(以下基本的な方針(案)と略する)が既にまとめられている。

 まず困難女性支援法の改正前は「売春防止法」(「旧売春防止法」と呼ぶ)で、この法律の目的は「性行又は環境に照して売春を行う恐れのある女子」と定義される「『要保護女子』の『保護更生』を目的」とするもので、「困難な問題に直面している女性の人権の擁護・福祉の増進や自立支援の視点には不十分なものであった。」とある。

 つまり売春(あくまで「売る」側)という「犯罪」を犯した、あるいは犯罪を犯す恐れのある立場に転落した「女性」を「保護」「更生」するのが「旧売春防止法」で、しばしばこの「旧売春防止法」は<上から目線><当事者の視点がない>と困難女性支援法の検討会や有識者会議の中でもしばしば批判されてきた。その後法律の運用としては「昭和45年度夫人保護事業費の国庫負担及び補助について」において「『婦人相談所又は婦人相談員がその受け付け時点において転落のおそれなしと認めた婦女子については、当該婦女子が正常な生活を営むのに障害となる問題を有しており、かつ、その障害となる問題を解決すべき機関が他にないと認められる場合に限り、転落未然防止の(下線は引用者)見地から当該障害となる問題が解決されるまでの間、婦人保護事業の対象者として取り扱って差し支えない』旨が示され、婦人保護事業の対象が『売春を行うおそれのある女子』以外にも拡大された」とある。興味深いのは『売春を行うおそれのある女子』以外にも拡大され、実質困難を抱える女性にその法律の適用が拡大されたのにもかかわらず、売春防止法というネーミングや法律の精神が変わらなかったのは、売春をすることを「転落」と表現することに躊躇がないその価値観においてであろうと私は考える。そしてその精神のまま21世紀にまで至った。

  又興味深いのは、平成13年(2001年)に施行された「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(以下「配偶者暴力防止法」いわゆるDV防止法)が婦人保護事業の根拠法の一つとなったということ、逆に言えば売春防止法に紐づいた形で「配偶者暴力防止法」が成立していることだ。また「日本に入国した外国人女性が監禁されたり、『売春』を強要されたりといった(人身取引の被害報告が増加したことを背景に、平成16年(2004年)に「人身取引対策行動計画」(人身取引対策に関する関係省庁連絡会議決定)が策定された。このような人身取引被害者の保護も婦人相談所が留置すべき事項となった。

 また「ストーカー行為等の規制等に関する法律」第9条で被害者に対する支援が明確に打ち立てられており、婦人保護施設での支援が通知されてもいる。

 このような状況を厚労省は「女性たちが直面している問題も多様化」し「婦人保護事業の対象者も拡大」したとみなしているが、「旧売春防止法における婦人保護に関する規定が抜本的に見直されることはなかった」。その後「女性活躍加速のための重点方針2018(平成30年6月12日すべての女性が輝く社会づくり本部決定)においては「『婦人相談所における支援について実施した実施把握の結果等を踏まえ、課題の整理を行い、社会の変化に見合った婦人保護事業の見直しについて有識者等による検討の場を設ける。その議論を踏まえつつ必要な見直しについて検討する』旨が決定された」とある。

 ここまでで注目すべきは、DV防止法や、外国人の「売春」含む人身取引、ストーカーといった問題を通して女性たちが直面している問題が多様化していると行政は考えてきた。しかしこれらはすべて「性」を軸とした関係性の中での困難である。もちろんそれらを軽視しろという話ではない。だが女性の経済的脆弱性、労働環境、年金制度、税制度といった問題がこの「多様化」の中に全く入っていないことに留意しつつ、「基本的な方針(案)」に記載されている「困難女性支援法における施策の対応者及び基本理念」を読んでみたい。

 法第2条は「法に基づく支援等の対象となる困難な問題を抱える女性について、『性的な被害、家庭の状況、地域社会との家計性その他の様々な事情により日常生活又は社会生活を円滑に営む上で困難な問題を抱える女性(そのおそれのある女性を含む)』と規定している。この部分で「女性が、女性であることにより、性暴力や性的虐待、性的搾取等の性的な被害に、より遭遇しやすい状況にあることや、よきせぬ妊娠等の女性特有の問題が存在することの他、不安定な就労状況や経済的困窮、孤立などの社会的経済的困難等に陥るおそれがあること等を前提としたものであり、このような問題意識のもと、法が定義する状況に当てはまる女性であれば年齢、障害の有無、国籍等を問わず、性的搾取により従前から婦人保護事業の対象となってきた者を含め、必要に応じて方による支援の対象となる」とある。基本的な方針(案)p.9では「女性特有の問題が存在することの他、不安定な就労状況や経済的困窮、孤立などの社会的経済的困難等に陥るおそれがあること等を前提としたものであり、このような問題意識のもと」という記載がある。そうであれば、女性の経済的脆弱性、労働環境、年金制度、税制度といった問題もこの「問題意識」の中に入ってきてもおかしくない。しかしこの後、以下の部分が続く。

 「特に、女性の尊厳を傷つけ、女性の人権を軽視する者である性暴力や性的虐待、性的搾取等の性的な被害を受けたものに対する支援は重要であり、被害による心的外傷から回復し、安定的な生活を営めるようになるための中長期的な被害を受けた者に対する支援は重要であり、被害による心的外傷から回復し、安定的な生活を営めるようになるための中長期的な支援を行うことは重要である」

 ・・・先ほど「DV防止法や、外国人の「売春」含む人身取引、ストーカーといった問題を通して女性たちが直面している問題が多様化していると行政は考えてきた。しかしこれらはすべて「性」を軸とした関係性の中での困難であると書いた。もちろんそれらを軽視しろという話ではない。だが女性の経済的脆弱性、労働環境、年金制度、税制度といった問題がこの「多様化」の中に全く入っていないことに留意」したいとも書いた。そしてせっかくこの「基本的な方針(案)」では「不安定な就労状況や経済的困窮、孤立などの社会的経済的困難等に陥るおそれがあること等を前提としたもの」という文言があるのに、「特に、女性の尊厳を傷つけ、女性の人権を軽視する者である性暴力や性的虐待、性的搾取等の性的な被害を受けたものに対する支援は重要」と書くことでやはり<「性」を軸とした関係性の中での困難>に優先度があるように私には読める。

 私は有識者会議を傍聴している中で「性的搾取」という言葉がしばしば登場した。しかしこの性的搾取とは何か、もっと言えば「困難女性」とは何かといった根本的な議論が有識者会議の中で出されることを期待した。しかしほぼそのような定義に関する議論はなされてこなかったといっていい。2月14日現在第三回までの有識者会議の議事録が公開されているが、強いて言えば、第三回会議の「支援対象となる女性でございますが」と「追及リスクの有無」という支援のテクニカルな話ののち 「年齢についてですが、今回の基本方針では全ての女性を対象として支援の方向性を 示すべきものと考えておりますが、論点の中には若年女性等の記述が随所に見られ、視点に 偏りが感じられます。若年女性の支援が必要であるということは当然ですが、偏りなく全て の年代の女性が支援の対象となるということが、明確に伝わるような基本方針としていた だきたいと思います」(p.18)とある程度だ。第三回では立教大学コミュニティ福祉学部教授の湯澤直美氏が「はじめに、法律の対象規定についてです。「性的な被害、家庭の状況、地域社会との関係 性その他様々な事情により」と規定することによって、困難な状況を幅広くすくい上げよう としている点は理解ができます。そのうえであえて一点申しますと、家庭や地域に包摂され ない状況に置かれている 40 代、50 代、60 代以上のシングル女性が取りこぼされてしまわ ないかという点について少しお話をしたい」(p.2)とあったが、その後有識者会議を傍聴していた身としては、この論点が展開されていったとは私には思えない。第二回の有識者会議で赤池構成員が「今回の基本方針に関する資料を拝見し、略称が「困難女性支援法」となっておりますが、 対象女性がこの略称に基づいた支援を我がことと思い、その支援を受けたいかと考えた時に略称を(下線引用者)「女性支援法」とした方が良いのではないかと考えますが、いかがでしょうか。」(p.29)といった発言はあくまでこれは「略称」の話であるし、また先ほどの「性」を軸とした関係性の中での困難という枠組みが確固としてある中で「困難女性」という主語すら大きすぎるものになってしまっている。しかし、この法律を「女性の福祉」「人権の尊重や擁護」「男女平等」といった視点を明確にするならば(1月31日院内集会にて配布された資料参照)、性的な暴力や虐待だけを特化すること(性的な暴力や虐待の問題を軽視するという意味ではなく、わかりやすい性的な関係だけではない形の女性の困難が存在すると言いたいだけである)は女性の多くの困難を取りこぼすのみならず、「困難女性」ということで自分が該当すると思って助けを求める多くの女性を各自治体で退けることになりはしまいかと、その混乱を大変恐れてもいる。女性の困難を即座に性的なものに限定していくことは、アジア女性資料センターが「(1/30)困難女性支援法のよりよい運営に関する院内集会へのメッセージ」にある「新法が差別的な売防法の枠組から真に脱するためには、性的侵害こそが女性の困難の中核にあるという本質主義的な見方」という批判に相当する部分でもあると私は考える。それは個々の女性が性的な虐待や暴力を受けて傷つくことは「犬に噛まれたものだから」みたいな言い方で軽視したり、性暴力や性虐待を受けて傷つくのはおかしいなどというトンチキな話ではなく、女性の存在のありようを「性的なもの」とだけ国家がみなすことのおかしさを私は批判しなければいけないと考えている。だからこそ「女性であることが脆弱さと結びつく多様な文脈が理解される必要」であるとは、女性がまさに性も含み込まれた人そのものの存在として「困難女性」を考えるべきだ、と私はこの困難女性支援法の施行を前にパブリックコメントを通して伝えていきたいと思う。

そうそう、最後に具体的な話。女性自立支援施設の設備及び運営に関する基準(省令)(案)、(冒頭のパブリックコメント募集の(2)に関係する)に記載されている「女性自立支援施設」の「設備基準」には「入居者一人当たりの床面積が、収納設備等を除き、おおむね9.9平方メートル以上とする」とある。これは以前の倍になったそうだ。それに繋がる話として「居室の入所定員」は「原則一人」となり(以前は複数人で同じ部屋に住むということもあったらしい)、「看護すべき児童を同伴する場合等」では「一人以上とすることができる」(以前は子供と離れて住まざるを得ないケースもあったという)とある。今回の困難女性支援法で具体的に役立つのはまずここの変更では、と私は思ったりするので皆様にお伝えして締めくくりたい。