2022年11月30日水曜日

『エトセトラvol.8』収録 インタビュー "ジュディス・バトラー 反ジェンダー、反多様性にフェミニズムは抵抗する (聞き手:清水晶子/翻訳:西山敦子(C.I.P.BOOKS) 企画・写真:間部百合)を読んで

 早速『エトセトラ vol.8』購入。絶対読みたかったのはジュディス・バトラーへのインタビュー(清水晶子さんがインタビュアー)。トランス女性とフェミニズムに関するガチのインタビュー。おおむね賛同のところは多く、特にトランス女性の在り方が男性性のパワーを解体する可能性をなぜ考えないのか、という問いはとても興味深いです。

とはいえ違和感がないわけではありません。今日は違和感のところをあげていきます。それが決して看過できないところだと思うからです。

例えばバトラーの(最初、清水さんが笑っているのかと思ったのですが、バトラーが笑っていたのでした!!。謹んで訂正いたします。申し訳ありません)、

"これらの国々(ナショナリズムが激しくなってる国:引用者注)の多くで貧困が増加してます。彼らには理解不可能なグローバル経済の財政的なプロセスの悪影響を被ります(略)そのように非常に激しい経済不安を抱えて生活してる人々は、ゲイやレズビアンやトランスとも、フェミニズムやジェンダー理論ともまったく関係ない理由で(笑)、一種の安全地帯として家族の概念に固執します”

とあるけど、そこの何が面白くて笑ってるのですか?ということとジェンダー理論と関係ないという話なのかという疑問です。

...ジェンダー理論と関係ないではなくその後に書かれてように家父長制を復活させたいがための家族固執なんだから、関係ないなどというぬるい話ではなく"個人"をなぜあらゆる生活の単位にしないのかという意味を考える上でもジェンダーに絡んだ重要な話のはずです。

そしてその貧困の問題が深く関わるはずのフェミテックと生殖技術の問題で、こちらもバトラーの発言で

"トランスフォビックなフェミニストたちは、男性が掌握するテクノロジーに深い恐怖心を抱いてます。彼らが究極的には女性の存在を不要なものにしてしまうのではないか"と発言してるのですが、どうにもトンチキ感があります。

"女性の存在を不要なものにする"

のを恐れてるのではなくこの言い方に倣うなら

"女性の身体だけを資源として必要とされる(金を払う)"

ことを恐れてるんではないでしょうか。だからこそ代理出産や子宮移植反対の話にもつながるし、またその代理出産の担い手が結局誰になるのか?という問題は貧困の話にもつながるでしょう。

有色人種の問題や言語の問題には今回のインタビューでもとても鋭いのに、貧困に対する言説がどうして急に甘くなるのかが不思議で仕方がありません。まるでジェンダーにだけ疎い人の逆バージョンを見るような不思議な気持ちになります。

ちなみに2006年のバトラー来日時、確かお茶大で講演があり私も嬉々として参加しました。あの時はメランコリーについて話していた記憶があります。

このあいだも北原みのり氏の記事とそこで引用されたバトラーの発言を批判しましたが、まさかバトラーを批判するなんてことをしたくなる日が来るとは、と改めて思います。その北原氏の記事もバトラーの発言にと"資本主義"そのものへの批判は見受けられず、今回のこのインタビューでも資本主義という言葉は出ていません。家父長制は出てきますが。※ちなみに今回の特集は"アイドル"ですがそちらの記事はアイドルの労働者性に関する内藤忍さんへのインタビュー記事しか読んでおらずすみません。。